もう一度、故郷の海を見たい、そう言い残し、男は消息を絶った。
幼くして日本画の巨匠に弟子入りし、二十年近い歳月を、父と慕う師の下に
学び、師の葬儀を境に姿を消した男。
失踪の謎を追って、男の故郷から、元刑事という老人が上京して来た。
「野崎君は故郷の唐津に手紙ば送っとるとです。長い間世話になった先生が
亡くなられた。悲しいが、これを機に自分はここを出て独り立ちするつもりだ。身の回りのことが少し落ち着いたら、一度唐津にも顔を出したいちゅうて。ばってん、それっきり故郷に戻る事もなく、消息ば絶ったとです。何かご存じの事は無かですか」
男は何処に、そして何故、消息を絶ったのか。歳月があやなす手がかりの糸をたぐり、老人が辿り着いた真実は、点描という絵画の一手法に受け継がれた、悲しくも美しい師弟の絆だった。 |
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